神戸地方裁判所 昭和48年(ワ)1141号 判決 1976年3月19日
被告 但馬銀行
理由
一、請求原因一項中、被告銀行神戸支店に、預金名義人、金額、預入日、期間および利率が原告主張のとおりの各定期預金が存在したことは当事者間に争いがない。
二、ところで、本件各預金の預金者が原告であるかはさておき、仮に原告が右預金の預金者であるといえたとして被告の時効の抗弁を考えるに、被告が銀行であり右各預金の受入行為もその営業としてなしたものであることは弁論の全趣旨から明らかであるから、右各預金債権は商法五〇二条に定める営業的商行為によつて生じた債権であるところ、右各預金債権の弁済期は、本件第一、二の預金債権については昭和四三年九月一二日、本件第三の預金債権については同年一〇月七日であり、そうすると、右各預金債権は、これが原告に帰属していたとしても、商法五二二条の定めるところにより、弁済期の到来後五年経過したとき、すなわち本件第一、二の預金債権については昭和四八年九月一二日、本件第三の預金債権については同年一〇月七日の経過と共に、いずれも消滅時効により消滅したこと明らかである。
三、原告は、被告主張の昭和四八年一一月二五日訴外山田正光到達の同訴外人に対する被告の相殺の意思表示は、原告に対する本件預金についての債務の承認と同一視されるべき旨再抗弁し、この主張は、時効完成後の時効利益の放棄の趣旨と解されるが(時効の中断事由たる債務の承認は、時効の完成後は存在し得ない)、債務の承認や時効利益の放棄(相殺も、受働債権に対応する債務の承認や時効利益の放棄となる)は、当該権利の権利者に対してなされることを要するものと解するのが相当であるところ、被告のなしたという右相殺の意思表示は訴外山田に対してなしたというのであり、また、訴外山田において原告の代理人(受働代理)または使者として右相殺の意思表示を受けたとの立証もないので、原告の右再抗弁は失当である。
なお、本訴においては、被告は昭和四八年一一月二五日訴外山田に相殺の意思表示をなすまで、本件各預金が同訴外人の債権として存在していたことを認めたのみであり、原告の債権として右時点まで存在していたことないし、これが現存することを認めたわけではないことは弁論の全経過から明らかであるから、被告が債務の承認ないし時効利益の放棄を自白した旨の原告の主張(「抗弁に対する原告の認否および再抗弁」二、(二)記載)は理由がない。
四、右のようにみてくると、仮に本件預金の預金者が原告であり、右預金債権が原告に帰属したとしても、同債権は時効により消滅したというべきであるから、右預金債権を原告が有することの確認を求める原告の本訴請求は、その余の争点につき調べるまでもなく理由がないものとして棄却
(裁判長裁判官 乾達彦 裁判官 武田多喜子 赤西芳文)